エレクトリックの12弦ギター

 以前のコラムで、12弦ギターの誕生から1960年代までの流れを紹介した。
それらは全てアコースティック・ギターだったが、今回は1960年代中期に誕生した代表的なエレクトリックの12弦ギターを紹介しよう。

 エレクトリックの12弦ギター・シーンにおいて、歴史的に古くもっとも人気があるブランドと言えば、やはりリッケンバッカーだろう。

 リッケンが12弦ギターの可能性に着目して開発をスタートさせたのは、1963年のことだ。
翌年360をベースにデザインされた360/12のプロトタイプが完成した。
以来360/12、450/12、456/12など、いくつもの12弦モデルが誕生し、エレクトリックの12弦モデルという新たなカテゴリーを確立した。

 リッケンバッカーは、元々繊細なトーンが特徴だが、12弦モデルのサウンドはより煌びやかで、他のブランドの12弦では味わえない特別な音の広がりと華やかさを持っている。
この12弦サウンドに魅せられたギタリストは多く、バーズのロジャー・マッギンを始め「エレクトリックの12弦はリッケンに限る」というギタリストは少なくない。

 リッケンの12弦モデルには大きな特徴がある。
一般的な12弦は、ヘッドの両側に6連+6連のチューナーが2列に並んでいる。
しかしリッケンの場合は、一つおきにチューナーを90度回転させて取り付けている。
簡単に言うと、エレキ・ギター用のチューナーとクラシック・ギター用のチューナーを交互に取り付けているような構造になっている。
こうすることで、12弦モデルでありながらヘッドストックを6弦ギターとほぼ同じサイズにできる。
これは正しく合理的なデザインではあるが、主弦と副弦とでボタンを回転させる方向が90度異なるため、チューニングの際に勘違いをしやすく、慣れるのにある程度時間が必要となる。

 また、リッケンの12弦モデルの中には、フロント・ピックアップの下にクシ状の金属パーツがセットされているモデルがある。
これは6-12コンバータと呼ばれるシステムで、6本の副弦をそのコンバータに引っかけ、ボディ側に引き下げて弦を固定できる。
これにより、ワンタッチで12弦ギターを6弦ギターとして使用できるという極めて斬新な機能だ。
機能的には確かに副弦が下に引き下げられるため、主弦の音しか出ないが、右手は6弦でも左手は12本の弦を押さえていると言う、何とも不思議な感覚に襲われる。

 また、リッケンの12弦は、主弦が上で副弦が下という配置になっているのもかなり珍しい仕様だ。
こうすることで、弦をヒットする際にピックが主弦に強く当たり、副弦は主弦のサポート的な役割となり、それが特有のリッケン・サウンドにも繋がっているようだ。

 ジョージ・ハリスンが12弦モデルを愛用したことで、ロジャー・マッギンを始め、カール・ウィルソン、グレン・キャンベルなど、いろいろなギタリストに12弦モデルが普及したことを考えると、ジョージ・ハリスンの影響力は計り知れない。

 フェンダーからは、1965年にエレクトリックⅫが発売され、ジミー・ペイジが「天国への階段」のレコーディングで使用し、最も広く知られる12弦サウンドとなった。
このモデルは、各弦のイントネーションのアジャスタブル機能を搭載した優れものだったが、発売から4年後の1969年に生産が完了した。
リッケンなどホロウボディの12弦モデルと比べると、ソリッド・ギターらしいテンション感のあるサウンドが特徴となる。

 ギブソンからは、フェンダー・エレクトリック Ⅻと同じ1965年に、ES-335の12弦ゲンバージョンとしてES-335-12が発売された。

 さらにギルドからも、1966年にセミアコースティック構造のスターファイアー Ⅻが発売され、VOXからはボディ内部にエフェクターを搭載したホロー・モデル、スターストリーム Ⅻも発売された。

 60年代半ばから後半に掛けて、各ブランドからエレクトリックの12弦モデルが続々と発売され、数年の間に大手ギターメーカーの製品が出揃った形となった。

 ギブソン、フェンダーに数年遅れて、日本でもヤマハからエレクトリックの12弦モデルが発売された。
1967年に登場したSG-12Aは、ヤマハらしいモダンなオリジナル・デザインを採用し、当時の若い世代のギタリストに強烈な印象を与えた。

 1965年に世界的に大ヒットしたバーズの「ミスター・タンブリンマン」により、12弦ギターの存在が大きくクローズアップされたことは間違いないが、1971年のレッド・ツェッペリンの「天国への階段」は、12弦ギターだけではなくダブルネック・ギターというかなり特殊なギターをも憧れの存在にした。

 12弦ギターが誕生した60年代中期は、現代のようにコーラスなどの空間系エフェクターはまだ存在していない。
ギターで広がりのあるコーラス・サウンドを得るには、何人かのギタリストが同時に演奏するか、12弦ギターを使用するしか方法が無かったこともあり、先進的なギタリストは新たなサウンドを求めて12弦ギターを手にしたのである(ボスのコーラス第1号CE-1は1976年に登場)。

 70年代後半にはアナログ・コーラスが幾つかのブランドから発売され、12弦ギターの需要は減りつつあったが、エフェクターによる擬似的なコーラス・サウンドに満足しないギタリストも多く、12弦ギターの魅力的なサウンドは多くのギタリストに支持され、現代に至っている。

 最後の写真は、60年代前半からリッケンバッカーの12弦モデルの純正弦として使用されたピラミッド弦。
ジョージ・ハリスンもロジャー・マッギンもみんなこの弦を使用していた(ハズ)。マイルドなサウンドが特徴だが、現在は発売されていない。

Special Thanks to Woodman、Eiichiro Shirai