12弦ギターのルーツは?

 レッド・ツェッペリンの「天国への階段」やイーグルスの「ホテル・カリフォルニア」を例に出すまでもなく、数々の名作には12弦ギターが印象的な場面で使用されていることがある。
煌びやかで涼しげなそのサウンドを聴くと「あ〜、やっぱり12弦ギターが欲しいな〜」と思った瞬間があるだろう。
今回から数回に亘り、そんな12弦ギターについて考えてみたい。

 まずは12弦ギターの歴史を紐解いてみよう。
12弦ギターのルーツを遡ると、メキシコの民族弦楽器にまで遡るという。
メキシコに限ったことではないが、民族楽器やクラシック楽器の中には複弦仕様の弦楽器がいくつも存在し、魅力的なサウンドを奏でている。

『The Ulutimate Guitar Book』より

 現代の12弦ギターの誕生は、それらの弦楽器からヒントを得た部分もあるが、6弦のフラットトップとマンドリンをブレンドして誕生したともいわれている。
そんな12弦ギターが登場したのはいつ頃のことだろう。

 リュートなどから進化したクラシック系複弦楽器(5〜6コース)は、18世紀からすでに存在していたが、ここではスティール弦を使用したポピュラー・ミュージックで使用されるフラットトップの12弦ギターに関して考えてみたい。

 大衆音楽の中で、最も古く12弦ギターを使用したのは、ブラインド・ウィリー・マクテルやバーベキュー・ボム、レッド・ベリーといった黒人ブルースマンだった。
バーベキュー・ボムは1920年代後半から、トレードマークでもある12弦ギターを使用してレコーディングを行っている。

 戦後になると、ピート・シーガー、ボブ・ギブソンといった白人のフォーク系シンガーたちが12弦ギターを愛用するようになり、多くのフォークシンガーがその後に続いた。

 当初は現在のようにPAなどが発達しておらず、より大きなサウンドが出るギターはプロギタリストにとって重要なアイテムだったに違いない。

 1920年代からアメリカでギターの通信販売を行っていた大手ブランドのステラでは、かなり早い時期から12弦モデルを生産・販売していたが、その多くはアーチトップ・ギターのように、テイルピースに弦を取り付けるスタイルが主流だった。

 1932年に、マーティンではアーチトップのCシリーズに12弦モデルが極少数製作され、同年に000-28スタイルの12弦モデルも1本だけスペシャルオーダーで製作されたという記録が残っている。
このあたりが現存するギターメーカーではもっとも古い12弦ギターと言えるだろう。

 しかし、マーティンからレギュラー・モデルとして12弦ギターが登場したのは、それから30年以上が経過した1965年のことだ。
マホガニー・ボディを採用したD-12-20、そしてD-35と同時に登場した12弦モデル、D-12-35の2モデル。
そしてD-28の12弦バージョン、D-12-28が1970年に登場した。

 マーティンより一足早く12弦ギターを発売したメーカーにギブソンがある。1961年にJ-45の12弦バージョンのB-45-12、翌62年にB-25 / LG-2の12弦バージョンのB-25-12が発売された。

 この頃から大手のギターメーカーでも、12弦ギターのニーズを意識した製品開発が行われるようになり、製品の充実と共に12弦ギター市場はより活性化して行く。

 1960年代に発売された12弦ギターの中で、特に注目されるのが1952年に誕生したブランド、ギルドだろう。

 ギルドでは1964年からいくつかの12弦モデルをラインナップしたが、そのフラッグシップとなるジャンボ・モデルF-512は、ギルドの名をギター市場に知らしめた。

 メイプル・ラミネイト・アーチバック、オリジナルブレイス、ダブルトラスロッドなど12弦専用の仕様をいくつも開発し、「12弦ギターといえばギルド」と呼ばれるほど高い信頼性を勝ち取った。

 このモデルは当初1968年にカスタムオーダーされたギターが切っ掛けだったが、その力強く煌びやかなサウンドが高く評価され、レギュラー・モデルとして70年代の音楽シーンの中で多くのギタリストに愛される伝説のモデルとなった。

 この続きは次回のコラムで…。

Special Thanks to Tokio Uchida、Woodman、Eiichiro Shirai