クリス・スクワイアとスティング

 ジミ・ヘンドリックスやピンク・フロイドが愛用したロトサウンド弦は、世界中のロック・シーンで注目され、会社は60年代後半に飛躍的な成長を遂げた。

 オーケストラ&ジャズ・ストリングス・リミテッドは、ジェームス・ハウ・インダストリーズ(JHI)に社名を変更、社屋も新たになるなど来るべき70年代に向けてより多くの従業員を抱える企業へと成長して行った。

 また弦の製造に加えて、ロトサウンド・ファズなどオリジナル・ペダル類の製造・販売も始まり、ジミー・ペイジもそれらを愛用、多くのギタリストに注目された。

 1970年頃から日本にもロトサウンド製品が入荷するようになり、日本国内の知名度も高まって行った。

 1972年、プログレッシヴ・ロックのスーパー・グループ、イエスのベーシスト、クリス・スクワイアもロトサウンド弦を愛用した。

 1974年、新たなアイディアによるベース弦「スーパーワウンド」が発売された。
これは弦のブリッジに乗る部分が、これまでのようにワウンド弦全体ではなくコアの部分だけであるため、弦振動がしやすく、長いサステイン、パワフルでクリアなサウンド、そして安定したピッチが得られるという画期的な製品だった。

 70年代半ばには、クイーンのブライアン・メイとジョン・ディーコンがロトサウンド弦の愛用者となり、同じ頃スーパー・フュージョン・グループのリター・トゥ・フォーエヴァーのスタンリー・クラークもファミリーとなった。

 ロトサウンド製品の愛用者は、ロックだけに留まらず、ジャズ、ブラック・ミュージック、ポップス、パンクなど、ジャンルを越えて支持されているのも大きな特徴となる。 

 ロック系ではシン・リジィのフィル・リノット、ジャズ系ではジャコ・パストリアス、パンク系では、ウィルコ・ジョンソン、ザ・ジャムのポール・ウェラー、ブルース・フォクストンなども愛用者となり、あらゆる人気ミュージシャンがロトファミリーとなった。

 1980年代に入ると、プレッシャー・ワウンド・ベース弦となる「RS55」が発売された。
弦の表面をフラットに加工することで、これまでにない滑らかな弾き心地とサウンドを実現して注目された。

 RS55を更に進化させた「スーパーワウンド 505」は、当時世界的に大ブレイクしていたポリスのベーシスト、スティングが愛用。
その製品広告にもスティングのライブ写真が使用された。

 それに続いて、ラッシュのベーシスト、ゲディ・リーが  スーパーワウンド「303」「606」を愛用した。

 80年代半ば、ベース界のスーパースターであるビリー・シーンもロトファミリーに加わった。

 80年代末は、自社工場で数多くの生産ラインがフル稼働していたが、またしても工場は手狭となり、スーパーワウンドの専用ラインの新たな工場を増設せざるを得なくなった。

 80年代後半、ガンズ・アンド・ローゼズのダフ・マッケイガン、ヴァン・ヘイレンのマイケル・アンソニー、アイアン・メイデンのスティーヴ・ハリスも広告塔となり、相次いで音楽雑誌の誌面を華やかに飾った。

 1989年。ビリー・シーンのシグネチャー・ストリングスがリリースされ、当時の製品カタログにも本人が登場して話題となった。

  90年代に入ると、ニルヴァーナのクリス・ノボセリックがロトサウンド製品を愛用し、グランジ、オルタナティヴ・ロック系のギタリストやベーシストたちの注目を集めた。

 1994年、創立者でありロトサウンドを長年牽引してきたジェームス・ハウが病に倒れ、会社は2人の息子、マーティンとジャードンにゆだねられたが、新たな製品開発は止まることはなかった。

 スーパーワウンドの歴史は1995年に閉じたが、アコースティック・ギター弦「カントリー・ゴールド」など、新たな製品が世界中のギタリストやベーシスト達をワクワクさせている。

 ロトサウンドはビードルズの現役時代に誕生したストリングス・ブランドの老舗であるが、常に前向きな製品開発は止まることなく、その時代を華やかに彩るギタリストやベーシストたちに支持されながら、現在の音楽シーンを支えている。

 一見同じようにも見える「ストリングスの世界」だが、そこには最先端のテクノロジーとミュージシャン達の強い拘り、そして専門ブランドとしてのプライドが垣間見えてくる。