1930年代、世界初となる量産型エレクトリック・ギター(通称「フライングパン」と呼ばれるラップスティール)を世に送り出したリッケンバッカーが、ソリッドボディ・エレクトリック・ギター市場に参入したのは、フェンダー、ギブソンから数年遅れた1954年のことだった。
そして1957年に自社初となるモデル 4000 ベースを発表した。

 このモデルが後にリッケンバッカー・ベースの代名詞となった4001の基本となった。
4000のデラックス・バージョンとなる4001は、ボディトップとネックにバインディングが施され、フィンガーボードにはトライアングル・ポジションをセット、更にフロント・ピックアップが増設されたことでサウンド・バリエーションも豊かになった。
4001と時を同じくして1961年に登場した製品が、今回紹介する「RICKENBACKER 4001S」である。

 4001Sは、発表当初はカタログでも紹介されず、特注的な扱いもあってあまり流通していなかったようだ。
64年から輸出モデルとしてカタログでも紹介され、その多くは当時のインポーターだったローズモーリスを介してイギリスに出荷された。

 このモデルの存在を世に知らしめたのは、ポール・マッカートニーの愛用だが、他にも有名なブリティッシュ・アーティストが名を連ねている。
写真の4001Sは、赤がほとんど褪色することなく残ったファイアーグロー・フィニッシュが印象的な1965年製。
元々数が少なく、しかもポールの愛用とあって、この年代の4001Sが市場に出ることはほとんどない。

 一目でリッケンバッカーと分かる個性的なボディ・シェイプは、60年代にフェンダーに移ってアコースティック・ギターを手がけたロジャー・ロスマイズルによってデザインされた。
カッタウェイからホーンの先端への形状は、波頭をモチーフにしている。
メイプルのセンター部を同じくメイプルのウィングで両側から挟み込んだボディ構造である。
ウェスト部分がプレイヤーの体にフィットするように上手く面取り加工されている。

 ネックはボディと同じメイプル製で、スルーネックと呼ばれるボディエンドまで一体化した構造。
フェンダーよりわずかに短い33.4インチ・スケールで、20フレットのアフリカン・ローズウッド・フィンガーボードがセットされている。
その下側には真っ直ぐな2本の溝が掘られ、U字型のトラスロッドがヘッド側から差し込まれている。
このロッドは一般的なものとは全く異なり、構造を正しく理解しないと扱うことができない。
リッケンバッカーの特徴の一つでもある黒いナットはベークライト製。

 ヘッドストックもボディに合わせたクレスティング・ウェイブ・デザインを採用。
63年からベースプレートの小さなチューナーを採用し、横幅がスリムにリシェイプされた。
ヘッドウィングには、初期の4000の名残りかウォルナットが使用されている。
トラスロッドカバーを兼用したネームプレートは、ヘッドシェイプの変更に伴ってやや細く短くなっている。

 トラスロッドカバーは、透明なアクリル板の裏側にブランドロゴを印字した後にホワイト・フィニッシュされている。
チューナーはクルーソン社製で、直径3/8インチのセイフティ・ストリングポストがセットされている。

 フロントにギター用のトースタートップ、リアにはホースシュー・ピックアップをマウント。
マグネットは異なるがどちらもシングルコイルで、ワイヤーは#44AWG。
独立したボリューム/トーンコントロールとセレクターを装備したモノラルアウト仕様である。

 62年から採用された大型のアジャスタブル・ブリッジ・アッシーは、アルミダイキャスト製。
テイルピースを兼ねたベースプレート、アジャスタブルサドルをセットしたブリッジ、スライドミュートに代わって採用された上下に動くラバーミュートの3セクションで構成されている。

Special Thanks to Shozaburo Nagata