以前このコラムで「ギブソン・レスポール・ファミリーには驚くほど多くのバリエーション・モデルが存在する」という話を紹介したが、今回はその中から「GIBSON Les Paul Recording」という個性的なレスポール・モデルを採り上げてみよう。

 このモデルの起源となったのは、1940~50年代に人気を博したギタリストのレス・ポールが、長年に亘り追及したハイファイなサウンドを生み出すギターを、ギブソン社として製品化するために開発されたレスポール・パーソナルである。

 1969年に発表されたパーソナルは、ローインピーダンス・ピックアップを搭載し、マイクロフォンの入力端子まで備えたかなり特殊なモデルだった。
しかも当時レスポール・カスタムよりも高価だったため、間もなくその康価版となるレスポール・プロフェッショナルが発表された。
しかしこのプロフェッショナルは短命に終り、更に2年後の1971年にサーキットをより進化させたニュー・モデルとして、レスポール・レコーディングが誕生した。

 レスポール・スタンダードは市場からのリクエストで、1968年からオリジナル・モデルの復刻が開始された。
その際ユーザーがレスポールに求めたサウンドとレス本人が目指すサウンドとは正反対のコンセプトであり、全く異なるタイプのシグネイチャー・モデルが同時進行していたことはとても興味深い。

 このレスポール・レコーディングを使いこなすには、高性能なプリアンプやスピーカーの使用はもちろんのこと、それなりの知識が必要だった。
また、スタジオで座って演奏することを前提としていたため重量が5キロ前後と非常に重いこともあり、ロック系のギタリストからは敬遠され、一般的に普及することはなかった。
しかし出荷量は意外と多く、登場した71年から生産が完了した80年までの間に5400本程が生産された。


 写真は1972年に生産されたレスポール・レコーディング。

 一見レスポール・スタンダードと同じように見えるボディだが、やや大型でマホガニーのセンターにメイプルを挟んだ3ピース構造になっている。トップエッジに施された4層のブラックバウンドとバックコンターがこのモデルの特微のひとつである。
ボディ幅は大型のプロフェッショナルよりも1.3センチほど小さいが、通常のレスポールよりも1.5センチ程大きい。
77年頃から小型化されレスポール・カスタムとボディを共有するようになり、メイプルトップ/マホガニーバックとなった。

 ブランドロゴがエンボス加工された楕円形のローインピーダンス・ピックアップは、メタルリングに3本のアジャスタブル・スクリューで装着されている。
バーマグネットを中央に置いたボビンを縦にふたつ重ねたスタック構造で、エポキシ樹脂を充填してカバーに固定されている。
一般的なコイルワイヤーと比べて遥かに太いワイヤーが使用され、ターン数は300回と少ない。
3プライのコントロールパネルに集約された回路は、コントロールポットが、ボリューム、ディケイド、トレブル、ベースの順に並び、フェイズ(イン/アウト)とインピーダンス(ハイ/ロー)切り替えのスライド・スイッチ、トーン・スイッチ、ピックアップ・セレクターが装備されている。
最終仕様ではアウトプットがボディ・サイドに移り、ハイ/ロー個別のジャックが並んでセットされるようになった。

 写真でも分かるように、このモデルの音作りは慣れが必要で、日頃エレクトリック・ギターを使用しているギタリストでもいきなり手にすると戸惑いがある。
レス・ポールはローインピーダンスなサウンドを追求していたためより理想的なギターとして開発したが、一般的なロック・ギタリストがステージで使用するにはいささか敷居が高かったようだ。