1833年に創業したフラットトップの老舗であるマーティンは、世界のアコースティック・ギター・シーンを牽引するブランドとして広く知られている。
マーティンというと、フラットトップの専門ブランドとして広く認識されているが、実はマーティンもかつてはいくつものアーチトップ・モデルを生産していたことは、あまり知られていない。
今回紹介するのは、1931年に製作された希少モデル「MARTIN C-3」。

 このモデルが登場したのは、創立100周年を間近に控えた1931年のこと。
31年はドレッドノート・モデルが登場した年でもあり、マーティンとしては100周年に向けて新たな展開を進めていた時期である。

 写真は1931年に生産されたC-3という高級モデル。
Cシリーズは、マーティン初のアーチトップ・モデルとして、1931年にC-1、C-2、C-3という3つのラインナップで登場した。
C-3はその中の最上位モデルで、ヘッドストックにはD-45でおなじみのバーチカル・ロゴが施され、指板にはスノーフレイクやキャッツアイのポジション・インレイが採用されている。
1930年に登場したOM-45の価格が当時$180だったのに対して、C-3は$200という価格設定で、まさしくフラッグシップ・モデルだった。

 マーティンのアーチトップはかなり個性的で、一般的なメイプルのアーチバックではなく、ブラジリアン・ローズウッドのフラットバックを採用。
フィンガーボード・エンドも一般的なアーチトップのように浮かせる設計ではなく、フラットトップのようにボディトップに接合されている。
そしてフラットトップと同じラウンドホールを採用(当時Fホールを採用していたアーチトップはギブソン L-5とL-10のみで、それ以外のはすべてラウンドホール仕様だった)。

 Cシリーズのボディはそれまでの最大モデルとなるOM(000)と同じ15インチ・ワイド、ボディ形状もOMと共通したデザインで、OMモデルをベースにデザインされていることが分かる。

 アーチトップ・モデルを創業時の1902年から生産していたギブソンは、当時ジャズ系やオーケストラのギタリストに絶大な人気を博していたが、フラットトップの老舗であるマーティンとしては、ギブソン・ギターの真似ではなく、マーティンならではのオリジナリティを活かしたアーチトップを製作しようとした結果が、それらの個性的な仕様に繋がったようだ。

 初年度に生産されたCシリーズは、C-1が139台、C-2が104台、C-3は僅か21台。
C-1とC-2は1942年まで生産されたが、C-3は発売から3年後の34年に生産が完了した。
CシリーズのC-1とC-2は、1932年~33年にサウンドホールがラウンドからFに変更されて生産が続けられた。
その後マホガニー・ボディを採用した低価格帯のRシリーズ、新たなローズウッド・モデルのFシリーズも登場している。

 マーティンとしてはかなり力を注いだアーチトップ・シリーズだったが、売れ行きは徐々に低下し、どのモデルも40年代初頭に生産終了となった。
フラットトップ・シーンでは絶対的な人気を誇るマーティンだが、アーチトップ・シーンにおいては苦汁を飲む結果となり、以来アーチトップ・モデルが生産されることはなかった。

 写真のギターは、そんなマーティン・ラインナップの中でもレア中のレアモデル。
生産から90年以上経過しているとは思えないほどコンディションが良く、ヴィンテージ・ギターとしての貫禄が漂っている。

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