ロトサウンドの誕生

 ギタリストにとって、ギターは音楽創造の道具であると同時に良き相棒でもある。
どんな相棒と音楽を作るのかはギタリストにとって重要なポイントだが、使用する「弦」にも同じようなことが言える。

 世界的な総合ストリングス・メーカーとして知られるロトサウンドは、ギターやベースはもちろんのこと、あらゆる弦楽器のストリングスを製造・販売している。
しかし、ロトサウンドのブランドが誕生した切っ掛けは、実はギターでもベースでもなく、意外な楽器だった。

 今回から数回に亘り、ロトサウンドの歴史を振り返ると共に、常にミュージシャンからの意見を大切にすることで誕生した数々の製品を紹介しよう。

 ロトサウンドの歴史は約65年前に始まったが、その創始者はジェームス・ハウという若き弦楽器奏者だった。
彼は1950年代初頭、ヴァイオリンとチェロを演奏する学生で、ある日観た映画『第三の男』(1949年公開)のテーマ音楽を聴いて、ツィター(ギターとハープが合体したようなヨーロッパの多弦民族楽器)の虜となる。
以来ツィター奏者となったジェームスだが、彼はプレイヤーだけに止まらず、自らツィターで使用するワウンド弦の手巻きワインディング・マシンを自作し、弦の製作を行うようになる。
彼はツィター弦の製造で学んだノウハウを活かし、やがて様々な弦楽器の弦を開発すると共に、いくつもの弦のワインディング・マシンを自作していった。

 1958年、兄弟のロンと共同で英国ケント州ブラックフェンにおいて「オーケストラル&ジャズ・ストリングス」という弦の製造会社を立ち上げ、弦作りをビジネスとして取り組むようになる。

 当初生産した製品は『ROTOP Music Strings』というブランド名で販売されたが、すぐに『ROTOS』ブランドとなり、1960年代初頭にラテン語で「丸」を意味する「ROTO」と組み合わせた『ROTOSOUND』というブランド名が誕生した。

 ロトサウンド弦はクオリティが高くすぐに当時の英国ギタリスト達の評判となり、多くのミュージシャン達に使用されていった。

 60年代にロトサウンド弦を愛用したバンドには、ビートルズ、ローリング・ストーンズ、シャドウズなどがあり、またロンドン交響楽団、ロイヤル・リバプール・フィルハーモニー管弦楽団などクラシック系、さらにはヴォクスやバーンズのオフィシャル弦などOEM生産も行うようになった。

 60年代中期にしてすでに英国を代表するストリングス・ブランドのひとつにまで成長したロトサウンドだが、ジェームス・ハウの開発意欲は現状に甘んじることはなかった。

 その後アップライト・ベースのサウンドをエレクトリック・ベースで再現するために開発された、フラットワウンドにブラックナイロンを巻いた「トゥルー・ベース」弦など様々な製品を開発。
独自なアイディアと技術によりオリジナル・ラインナップを精力的に増やし、音楽シーンに春風を巻き起こしていった。

 この続きは「物語のパート ②」で…。