クラプトンが使用した、謎のハンドメイド12弦

 12弦ギター特集の「第6弾」は、エリック・クラプトンの使用で注目された謎のハンドメイド12弦ギターの紹介。

  クラプトンがコロナ禍で制作したアコースティック・アルバム『ザ・レディ・イン・ザ・バルコニー ロックダウン・セッションズ』は、気のおけない仲間達とのセッションをありのままに収録したシンプルな作品として、大きな話題となった。
アコースティック・ギターによるシットダウン・スタイルのセッションは、あの名作『アンプラグド〜アコースティック・クラプトン〜』を彷彿とさせ、アコギ・ファンに絶賛されたが、もう一つアコギ・ファンに大きな話題を提供した。

 そのアルバム・レコーディングにおいて、クラプトンはマーティンではない見慣れない12弦のドレッドノートを使用した。
12弦ギター特集の「第6弾」は、その話題のギターの詳細を紹介しよう。

 昨年末に発売された『Player』誌2022年1〜3月合併号のカバーを見て頂きたい。
エリック・クラプトンの左側で一緒にギターを手にしてにこやかに微笑んでいるのは、クラプトンの専属ギターテクニシャンのダン・ディアンリィ。
そして2人が手にしているギターが、話題となった12弦モデルである。

 実はこのギター、ギターテクニシャンのダンがエリックのために特別に製作したもので、一般に販売されているギターではない。
ダンは元々ギターの製作学校、マートン・テック・ガレージを卒業しており、エレクトリックからアコースティックまで、いくつかのギターを製作したルシアーでもある。
以前ダンは、プライベートで昔自分が製作したアコースティック・ギターをクラプトンに試奏してもらったことがあり、その時本人から「私に12弦ギターを作ってくれないか?」と言われていたという。

 そこでダンは数ヶ月掛けて12弦ギターを製作し、クラプトンにプレゼントしたというわけだ。
アルバムのレコーディングに関しては、エリック本人がマーティンの12弦、D12-28と弾き比べをして、ダンのギターを選んでいる。

 この12弦モデルには、D12というモデル名が付けられているが、D12はまだこのクラプトンのギターしか製作されていない。

 では、ギターを見て行こう。
基本的なデザインは、見て分かるようにマーティンのドレッドノートの12弦モデルをベースにしている。
ボディトップはシトカスプルース、バック&サイドはインディアンローズウッド、ネックはアフリカンマホガニーを使用。
トップのシトカはやや赤みをおびているが、これは長年乾燥させた材を知人から譲り受け、それを使用しているためで、近年流行のトリファイド加工をしているわけではない。

 スケールはマーティンの12弦と同じ632mm、ナット幅は46mm。
ブレイシングはシトカスプルースを使ったX タイプで、ヴィンテージ・サウンドを意識してスキャロップド加工が施されている。

 ヘッドストックは軽量化も考慮したスロッテッドタイプで、ややクラシカルなイメージ。
エボニーの突き板をラミネートしたヘッドの頂点にはダン・ディアンリィのイニシャル「D」の飾り文字が大きくインレイされている。

 ダンは以前から本格的なギター製作を行いたいと考えていたそうで、このクラプトンのギター製作を切っ掛けにダン・ギターズを立ち上げ、ギター工房とギターテクニシャンの二股で仕事をしていくそうだ。

 実際にすでにダン・ギターズには、日本からのギター製作依頼が入っているようで、現在クラプトンと同じデザインのD12を製作が進行している。

 クラプトンが自ら選んだというダン・ギターズのD-12。
いったいどんなサウンドなのだろう。

Special Thanks to Dan Dearnley、Player Mag