様々な弦楽器を製造したギターの老舗

 「MARTIN」と言えば、創業1833年というアコースティック・ギターの総合メーカーとして、世界中で広く親しまれている。
昔はプロミュージシャンが愛用する高級ギターが中心だったが、近年はビギナーから上級者まで、ありとあらゆるユーザーに対応するモデルを取り揃えており、そのラインナップを細かく分けると数百のモデルになる。
近年はエレクトリック仕様のモデルも充実し、さらにはカスタムショップによる超高級モデルや有名アーティストのシグネチャー・モデル、ヴィンテージ・リイシューなど、充実したラインナップで世界のアコースティック・シーンを牽引している。

マーティンのソリッド・エレクトリック EM-18、EB-18

 マーティン・ブランドでギター以外の弦楽器というと、1910年代半ばに登場したウクレレも長い歴史を誇り、1920年代から40年代にかけて世界中で巻き起こったハワイアン・ブームを象徴する楽器となった。
しかし50年代以降はハワイアン・ブームも姿を消し、70年代半ばからは暫くウクレレの生産ラインが停止していたが、近年のウクレレ・ブームで生産ラインが再開し、新たな展開を行っている。
しかし、ギターとウクレレ以外の弦楽器に関しては現在生産されていない。

1880年代末に発売されたマーティン・マンドリン

 だがマーティンの長い歴史を遡ると、かつてはギターやウクレレだけではなく、ソリッド・エレクトリック・ギターやシンライン・ホロウボディ・モデルを始め、エレクトリック・ベース、アーチトップ・ギター、クラシック・ギター、パーラー・ギター、ハワイアン・ギター、テナー・ギター、など、様々なタイプのギターを数多く生産していた。
またティプル、フラット・マンドリンやボウル・マンドリン、マンドセロ、バンジョー(ヴェガ・ブランド)などギター以外の弦楽器や、他のギター・ブランドのOEM製品なども長年に亘り生産していたことは、あまり知られていない。

1929年のカタログより、ハワイアン・モデルとテナー・モデル

 今回から数回に亘り、そんなマーティンの歴史の1ピースである個性的な弦楽器や現在は生産されていない幻の弦楽器を紹介しよう。
その中には、ほとんどのマーティン・ファンも見たことがないレアモデルや、現在はヴィンテージ・ギター・ショップでもお目にかかれない超レアな製品もある。しかしそれらの全てがマーティンの歴史であり、真の姿である。

「Martin Guitars : A Technical Reference 」より、アーチトップ・モデル