マーティンの12弦モデル

 12弦ギター特集の「第4弾」は、世界で最も広く愛されているアコースティック・ギター・ブランド、マーティンの12弦ギターを紹介しよう。

 現在は、大手ギター・メーカーであればほとんどのブランドで12弦モデルがラインナップされている。
歴史的にみるとギルドやキブソン、ゼマイティスの12弦モデルは昔から定評があり、近年ではテイラーの12弦モデルも高く評価されているようだ。

 マーティンから最初に12弦モデルが発売されたのは、世界的にモダンフォーク・ブームが席巻していた1964年のことだった。
まず当時の人気モデル、D-18をベースにして開発されたD12-20というマホガニー・モデルが登場した。
これに続いて翌65年に、D-35の登場に合わせてその12弦バージョンとしてD12-35が発売され、当初はこの2つのモデルがマーティン12弦の中核を成していた。

 そして1970年に、最も人気のあるモデルであるD-28の12弦バージョンとしてD12-28、1973年にD-18の12弦バージョンとしてD12-18が追加発売された。
暫くの間はそれらの4モデルがマーティン12弦の主流だったが、80年代前半からD12-20とD12-35、そしてD12-18の3モデルは徐々に生産数が絞られ、90年代以降はD12-28に引き継がれる形で現在も生産が続いている。

 最初に登場したD12-20とD12-35は、12フレットジョイントとロング・ボディ、そしてスロッテッドヘッドを採用したクラシカルなスタイルが大きな特徴となる。
この仕様は、ドレッドノートが誕生した当初の1930年代前半のデザインと共通している。

 12本の弦の振動エネルギーと豊かな響きを効率よく活かすには、やはり大型ボディの方が合理的だと考えるメーカーは多く、ギルドやゼマイティスなど12弦モデルには大型ボディが採用されている製品が多い。

 しかし面白いことに、1970年に登場したD12-28は14フレットジョイントとスタンダードなドレッドノート・ボディが採用され、ヘッドストックもソリッドヘッド仕様である。

 この仕様の違いは様々な理由が考えられる。
まず、スタンダードなD-28のボディ・デザインは圧倒的に人気があるため、ユーザーにアピールしやすいこと。
また12弦モデルは出荷数が少ないため、6弦モデルと共通するボディを採用した方が生産性が良いこと。
更に、現在のマーティン製品は昔のようにアメリカの男性ギタリストだけがターゲットでは無いため、超大型のロング・ボディを12弦モデルのスタンダードとするのは、セールス的にいささか抵抗があったのではないだろうか?

 また、12弦モデルが登場した1960年代と比べて、現在はネックの精度や剛性が高まっており、あえて12フレットジョイントにする必然性もないのかもしれない。

 仕様の変化は、D12-28がスロッテッドヘッドではなくソリッドヘッドを採用していることにも同じようなことが言える。
スロッテッドヘッドはソリッドヘッドよりも軽量だが、クラシカルなデザインは好みの別れるところでもあり、またデザインが複雑な分生産効率も良くない。
マーティンとしては、それらを総合的に判断して、12弦モデルの基本を14フレットジョイント、ストレートヘッドに統一したと考えられる。

 マーティンの12弦モデルは、D12-20からスタートしたが、現在はD12-28以外にも、廉価モデルのDM-12やD12X-1、J12-15、J12-16GT、などいくつもの12弦モデルのバリエーションがラインナップされ、広がりを見せている。
アコースティック・ギターが好きな人であれば、ぜひその魅惑的なサウンドを体験することをお薦めしたい。

Photos by『Martin Guitar A Technical Reference』