アルミで作られたアコギ、実は凄い。

「こんなマーティン見たことない! シリーズ」の最後に、マーティン社の凄さが分かるユニークな製品を紹介しよう。
「アルターネイティヴ」というシリーズが2000年代初頭に登場した。
かなり印象的なモデルなので、長年のマーティン・ファンであれば覚えている人もいるだろう。
これはアルミニウム・ボードを、そのままボディトップに使用したとても斬新なエレクトリック・アコースティック・モデル。
当時「NAMMショー」で発表された際に「マーティン製品とは思えない!」として物議を醸し出したシリーズである。
誰しもが「単なる話題作りのコンセプト・モデルだろう…」と思っていたが、製品は実際に発売されギター・ファンの間で大きな話題となった。

何ともインパクトのあるユニークなデザイン。

 2002年に登場したこのシリーズは、殆どのモデルが数年間という短い生産期間だったが、中には2010年代まで生産されたモデルもあるようだ。
ラウンドホールを採用した最もスタンダードなデザインのアルターネイティヴ X グランド・コンサートの他に、ビグスビー・トレモロとシングルコイル・マグネット・ピックアップをボディトップに搭載したアルターネイティヴ XT、リゾネイター・タイプのアルターネイティヴ Ⅱ リゾネイター、MIDIピックアップを搭載したアルターネイティヴ X MIDI、ドレッドノート・タイプのアルターネイティヴ Ⅲ、ベース・バージョンのアルターネイティヴ・ベースなど、6〜7モデルが相次いで販売され、マーティン社の本気ぶりを示した。
当初ビグスビー付きのアルターネイティヴ XTが日本に入荷したのは僅か数本だったが、その内の2本をギター好きのムッシュかまやつとCharが購入している。

アルミの表面には丸くブラッシングされたようなヘアラインが入っている。

 ボディトップがアルミニウム・ボードで、ボディのバックとサイドはHPL(ハイ・プレッシャー・ラミネート)と呼ばれる薄い木材を何層も高圧で圧着した新素材を使用。
HPLは低価格帯のXシリーズなどで用いられるが、このアルターネイティヴ・シリーズも一種のXシリーズのカテゴリーと考えられる。
そしてストラタボンド・ラミネイテッド・ネック(1ミリ程の木材を積層にして樹脂で圧着した新素材)とミカルタ製フィンガーボードとブリッジを採用しているのも特徴のひとつ。
HPLもストラタボンドもミカルタも従来の木材とは比較にならないほど環境の変化に強く、また原価も安いことから、新しいギター作りにトライするマーティンらしいアプローチと言える。
ボディ内部は完全なアコースティック構造で、トップ裏にはXブレイシングがセットされている。
このシリーズにはシルバー・クロコダイルレザーを使用した専用ハードケースが付属した。

リゾネイター・スタイルのアルターネイティヴ Ⅱ リゾネイター

 マーティンの上級モデルはこれまで通り伝統的で上質なトーンウッドを使用しているが、近年それらはどんどん枯渇する傾向にある。
マーティン社では、従来のトーンウッドの現状と自然環境の保護を視野に入れた新たなギター作りのあり方を長年模索してきた。
その結果として、生産量の多い廉価モデルなどはHPLやストラタボンド、ミカルタといった新素材を積極的に使用すると同時に、植林にも力を注いでいる。
このアルターネイティヴ・シリーズは、ユニークで話題性のある現代的なモデルであると同時に、その根底には「いかに希少なトーンウッドを使用せずに新しいギター作りができるか」というテーマに沿った試みのひとつでもある。

このシリーズには、なんとベース・バージョンのアルターネイティヴ・ベースも存在する。

 1992年に発売されたマーティンのトラベル・ギターであるバックパッカーも、「それまで処分されていた廃材を再利用して楽器を作る」というコンセプトの元で生まれた製品だった。
「高級ギターは良質な素材を贅沢に使い、購入できる人達だけがそれを楽しめればいい」という考え方ではなく、「限られた条件の中で、どうしたらより多くの人たちが楽しく演奏できるギターが生産できるか」というコンセプトを実現して行くい時代なのかもしれない。
190年に及ぶ長いギター作りの歴史の中で、色々な意味で現在が最も充実した時代とも言えるマーティン。
楽器としてのクオリティの追求はもちろんのこと、「今後の自然環境や音楽環境をいかに守って行くか」というとてつもなく大きなテーマを見据えながら、マーティンは新たなギター作りに挑戦している。