1928 MARTIN 0-28K / 1922 0-28

マーティンのサイズ0(オー / ゼロ)は、サイズ5と共に1854年に登場した。
当時はまだギターにスティール弦が使用される以前で、マーティンを含め全てのブランドでガット弦が使用されていた。
ガット弦はスティール弦と比べて張力が弱いため大きなボディを鳴らすことは難しく、当時は小型モデルが基本だった。

 サイズ0は今でこそ小型モデルに分類されるが、デビュー当時は最も大きなボディを採用した大型モデルとして登場した(ボディ・サイズは13-1/2インチ・ワイド、4-3/16インチ・デープ)。
1960年代以降のフォークソング・ブームでは女性プレイヤーを中心に使用されることが多かったが、シングルノートで弾いた時のトーンが太くバランスも良いことから、レコーディングで愛用するギタリストも少なくない。

 マーティン製品が、ガット弦からスティール弦に切り替わったのは1920年代で、それ以降急速にボディの大型化が進んでいった。
今回紹介する2本のギターは、どちらもマーティンがスティール弦を採用し始めた頃に製作された「0-28K」(左 / 1928年)と「0-28」(右 / 1922年)である。

 どちらのモデルもスタイル28であるが、左の0-28Kは写真を見て分かるように、トップを含めボディ全体が美しいハワイアンコアで製作されている。
実はこのモデル、一般的なフラットトップではなく、ハワイアンで使用されるスライド演奏用のラップ・スティール・ギター。
演奏者は椅子に座り、膝の上にギターを横に寝かせて左手にスライドバーを持って演奏する。

 マーティンの場合、ハワイアン・ギターにもフレットが打たれネックがラウンド形状になっているため一見分かり難いが、よく見るとブリッジ・サドルがブリッジと平行にセットされ、ナットとサドルが高く設定されている。
0-28K(モデル名の “K” はコアの頭文字)は1917年から31年まで生産されたが、当初は全てハワイアン・ギターとして生産され、後半になってスパニッシュ・スタイルでも演奏できる0-28Kが生産された。

 1910〜40年代のアメリカは空前のハワイアン・ブームで、マーティンを始めギブソン、オアフ、ナショナル、リーガルなど各ブランドからはハワイアン・ギターが数多く発売された。

 写真右の0-28は、1870年代から1931年まで生産されたロングセラー・モデルで、ボディはスプルースとハカランダから作られている。
スロッテッド・ヘッド、12フレット・ジョイントという当時として標準的な仕様である。
他社のハワイアン・ギターには、スクエア・ネックを採用したハワイアン・モデルも数多いが、マーティンにはスクエアネック・モデルが存在しない。

 1960〜70年代は世界的なフォークソング・ブームで、マーティンのドレッドノートが世界的に支持されるようになり、70年代以降は小型モデルの需要が減ったことで、サイズ0はレギュラー・モデルのラインからは外され、極少数がカスタム・モデルとして生産されていた。

 しかし、1992年以降はエリック・クラプトンを中心としたアンプラグドの大ブームにより、アコースティック・シーンが大きく変わっていった。
それまではほとんど生産されていなかった、ドレッドノート以外の小型モデルがにわかに注目され、フィンガーピッキングを中心に再評価が高まった。

 1990年代後半から000、それに続いてOM、更には0(シングル・オー)や00(ダブル・オー)といった小型モデルが次々に復刻し、現在はシグネチャー・モデルやリミテッド・モデルも含め、いくつかのサイズ0が生産されている。

 マーティンのハワイアン・ギターはラウンドネックであるため、ナットとサドルが改造され、一般的なヴィンテージ・フラットトップとして使用されている個体も少なくない。

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