1969 MARTIN D-45

 前のコラムで、ギブソンとフェンダーが1968年に発売した人気モデルに関して紹介したが、もうひとつ同じ年に発売された人気モデルがマーティンにある。

 1968年、アコースティック・ギターのトップ・ブランドとして知られるマーティン社は、1942年に生産中止となった「D-45」の再生産を開始した。
これはオリジナル・モデルの仕様を細部にわたり復刻したヴィンテージ・リイシューというより、フラット・トップの最高峰であるD-45というモデルの復活という意味合いが強かった。

 1933年に誕生したD-45は、ミュージシャンの成功した証として特別にオーダーされるステイタス・シンボル的な存在で、一般的なギタリストが手にできるモデルではなかった。
しかし、この再生産を機にレギュラー・ラインのひとつとして加わったが、人気の定番モデルとして知られるD-28の3倍という価格設定や極端に少ない出荷数を見ても、やはり高嶺の花であることに変わりはない。

 マーティンは、1969年までの製品にはボディにブラジル産のローズウッド(ハカランダ)を使用していた。
そのため68年、69年に生産されたD-45にもハカランダが使用されている。
アコースティック・ファンの間ではハカランダ信仰が非常に根強く、再生産の初期2年間に生産された229本のD-45は、現在特別な評価を得ている。

 単にD-45というだけでもファンにとっては垂涎の的であるが、68年、69年に生産された製品は、70年以降に生産されたインディアン・ローズウッドの製品とは明確に区別され、それが現在の市場価格にも大きく反映している。

 今回紹介するのは1969年製のD-45で、長年に渡りライ・クーダーが愛用した有名なギターである。


70年にリリースされたライのアルバム『紫の渓谷』の見開きジャケットを始め、多くのライブ映像でもこのギターを使用する姿が確認できる。

 敢えてハイグレード・ギターの使用を避け、ビザールとも呼ばれるタイプのギターを愛用したライ・クーダーだが、高級ブランドのフラッグシップ・モデルであるD-45を選択したことは大変興味深い。
写真のギターを手放す際に添えられたライ本人のメモには「ボトルネック・スタイルのレコーディングに最高のギターだ」と記されていたという。

 写真でも分かるように、最も特徴的なのが一見しただけで68年、69年製と判断できる角の丸いヘッド・シェイプ。これは意識的に仕上げたものではないようで、69年製であっても末期の製品は70年以降の製品と同じ角張ったシェイプの製品が多い。
ヘッド・ベニヤは、ボディとマッチングしたブラジリアン・ローズウッドが使用され、縦ロゴと呼ばれる “CF MARTIN” の特徴的なアバロン・インレイが施されている。
当時インレイは手作りであるため字体には個体差があるが、70年代のものに比べるとやや細身に仕上げられている。

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