④エンブレムが無いギター

 ゼマイティスのエンブレム特集の最後は、エンブレムが付いていないギターを紹介しよう。

 ゼマイティスというと、ヘッドストックのエンブレムが大きな特徴だが、初期の作品の中にはメタル・エンブレムが付いていないものがある。
50年代と60年代に多く見られるが、70年代以降の作品にも時々エンブレムが付いていないものがある。

 一つ目の写真は、1971年に製作されたアコースティック、ジャンボ・スーペリア。
このギターは、まだロンドンにトニー・ゼミティスの工房があった時代に製作されたもので、それまでのアコースティック・ギターの製作からエレクトリック・ギターの製作に変わりつつある時代の作品だ。

 18インチ近い大型ボディを採用したアコースティックのジャンボ・スーペリアだが、現在は見かけないギブソン・ギターにインスパイアされたようなヘッド・デザインが採用されている。
ヘッドにはメタルのトラスロッドカバーがセットされているが、エンブレムは付いていない。

 2本目のギターは、やはり1970年代初頭に製作されたアコースティック・モデル。
こちらは、なんとエンブレムどころか、トラスロッドカバーも付いていない。
初期に製作されたゼマイティス・ギターの中には、トラスロッド自体が埋め込まれていない製品もあり、もしかするとこのギターもその中のひとつかもしれない。

 アジャスタブル・トラスロッドはネックの状態をキープするためには必要不可欠な機能であるが、これを採用することでギターのトーンがやや金属的なニュアンスになり、重量も増える。
現在でもクラシック・ギターの多くには金属製トラスロッドは使用されていないが、エボニーやカーボン製ロッドを仕込んでいる製品はある。

 3つ目の写真は、1978年に製作されたデイヴ・ギルモアがオーダーしたゼマイティスのアコースティック・フレットレス・ベース。

 18インチを越える大型ボディを採用し、ボディトップはスプルース、バック&サイドはフィギュアド・メイプルが使用されている。
ゼマイティスでもこのタイプのアコースティック・ベースは珍しく、トニーは数本しか製作していないようだ。

 このベースが製作された70年代に、スパニッシュ・タイプのアコースティック・ベースを製作していた工房はほとんどみあたらず、おそらくゼマイティスくらいではないだろうか。
こんなところにも、トニー・ゼマイティスの製作意欲とチャレンジ精神が窺える。

Special Thanks to Keith Smart、Shozaburo Nagata