今回はフェンダー製品の中でも異色の存在として知られるギター「SWINGER」を紹介しよう。
このモデルはフェンダー工場で生産されているが、本来のラインナップにはないかなり変わった存在で、1969年にミズーリ州のナッシュミュージックというギターショップから発売された。

 「余剰在庫を利用して新たなモデルを作る」という使命を受けた生産部門のヴァージリオ・シモーニによる会心作で、現在は格好のコレクターズアイテムとなっている。

 当時の生産現場では、「ミュージックランダー」や尖ったヘッド形状から「アロー(鏃)」と呼ばれ、「スウィンガー」という名称はナッシュミュージックが独自に付けたものと考えられる。
それゆえ、本来出荷時にあるべきヘッドのモデルネームが見られず、後から用意したスウィンガーのステッカーをブランドロゴの横に並べて貼っていた。
このステッカーが綺麗な状態で残っている製品は極稀で、写真のギターも例外ではない。

 写真は当時のレアカラーであるバーガンディ・フィニッシュを施した69年製のスウィンガー。
ボディ外周の赤いグラデーションが褪色しているため確認しにくく、一見レイクプラシッド・ブルーに見える。
バーガンディ・フィニッシュは、69年にモデルチェンジが行われた初期のムスタングに採用されたレアカラーで、ボディエッジのパープルがセンターに向かって徐々にブルーに変化していく。

 スウィンガーのほとんどは、65年に発売されたベースVのアルダー・ボディが再利用されて作られている。
ピックガードの下には、ベースVのスプリット・ピックアップ用のキャビティがルーティング加工されている。
ベースVはジョイント部の形状が独特であるためコンバートは容易ではないが、絶妙に処理されている。

 ボディエンド部分が大胆にえぐり取られているが、このデザインは必然的なもので、ベースVは弦が裏通しの仕様であるため本来ボディに5個の穴があいている。
これを避けるために弧を描くラインでカットされている。

 ミュージックマスターなどに採用されていた22-1/2インチのショート・スケール・ネックを採用し、そのほとんどが66年から67年に掛けて生産されたローズウッドのラウンドボードがセットされている。

 チューナーの反対側を直線にカットしたアローヘッドが採用され、ブラックのモダンロゴがセットされているが、スウィンガーのステッカーは欠損している。
ステッカーが剥がれた後の塗装の焼け跡も見られないことから、出荷時からステッカーが貼られていなかったと思われる製品も多数見受けられる。
ステッカーは貼られずに付属した状態で出荷されたか、ナッシュミュージック以外の楽器店にも一部流通していた可能性も考えられる。

 アッセンブリはミュージックマスターのものをそのまま流用している。
3プライ12点止めのパーロイド・ピックガードは1弦側だけがボディに合わせてリシェイプされ、ホーンの先端部が尖った形状に仕上げられている。
1弦と2弦の間に位置するビックガード中心部の止めネジは、真下にベースVのPUキャビティがあるためダミーのネジが付いている。
ビニル被覆のリード線が使われるようになったピックアップはグレイボビンで、製造年のゴム印が押されている。

 専用のソフトシェルケースが付属している点も通常のフェンダー製品とは異なっている。
フェンダー社は基本的にソフトシェルケースを使用しないため、写真のケースはナッシュミュージックが用意したものかもしれない。

 正式なラインナップではなかったスウィンガーだが、2019年にこのモデルをこよなく愛する野村義男のプロデュースにより正式なモデルとしてリリースされた。
また近年は、King Gnuの常田大希のシグネチャー・モデルとしても発売されたことは記憶に新しいだろう。
極めてコンパクトで軽量なデザインは、女性ギタリストやライブ用ギターとしても使いやすく、新たな需要が注目されている。

Special Thanks to Yoshio Nomura