現在市販されてるほとんどのギターには、ギター・ケースが付属している。
廉価モデルや中級クラスのモデルであれば、専用ギグバックなどが付いているし、高級モデルともなれば、豪華なオリジナル・ハードシェル・ケースが付いていることも珍しくないだろう。
現在発売されているゼマイティスの場合も、価格帯によってそれらのケースが付属している。

 しかし、2000年頃までのゼマイティス・ギターには、なんと木製のコフィン・ケース(俗称棺桶ケース)と呼ばれる直線で構成された四角い専用ケースが付いていたことをご存知だろうか?
このケースは、何とそのギターに合わせて製作者のトニー・ゼマイティスが自ら作っていた。
厚い合板ベニアをギターが入るジャスト・サイズにカットし、ケース用の留め金とハンドルを取り付けたシンプルなもので、基本的には塗装やカバリングは施されてされていないが、簡易な内装が付いている。

 写真は、1986年にトニー・ゼマイティスが製作した12弦のアコースティック・カスタム。
18インチ・ワイドに近い超大型のジャンボ・モデルだが、ぴったりと収納できるコフィン・ケースに収納されている。
ケースの内部に真っ赤なフェルト生地が貼り付けられており、素朴なケースではあるが運搬の際にギターをしっかりと保護できる。

 トニー・ゼマイティスは、ギター製作家になる前に家具職人だったこともあり、こういったケースを作る事はそれほど難しくはなかったようだ。

 ケースをひとつひとつ自作するなら、ケースの専門メーカーに製作依頼した方が早いと思うかも知れないが、そう簡単ではない。
このギターのように、18インチ幅の12弦ギターが収納できる大型のハードケースは、そう簡単には見つからない。
また、トニー・ゼマイティスの製作したギターは1本1本サイズやデザインが異なるため、そのバリエーションは切りがない。

 トニー・ゼマイティスは、ブリッジやテイルピースなどの金属パーツも自分で削り出して製作していたが、ギター製作家としてのアイデンティティとして、あえて自作していたのだろう。

 現在コフィン・ケースを採用しているギター・ブランドは基本的に存在しないが、1800年代から1900年代の初頭までは、マーティンやワッシュバーンなどでもこのようなケースを採用しており、この年代のヴィンテージ・ギターには、当時の黒いコフィン・ケース付属していることがある。

 ハンドメイドで知られるゼマイティス・ギターだが、ケースまでハンドメイドしていたとは正しく驚きだ。

 写真のケースは、ケースの重量だけでなんと7キロ近くあるというから、手持ちで運ぶとしたら一苦労であることは間違いない。

Special Thanks to Shozaburo Nagata