ハンマー・ダルシマー

 トニー・ゼマイティスが製作した様々な楽器の中でも、今回紹介するハンマー・ダルシマーは、最もユニークな存在と言えるだろう。


 写真を見て分かるように、もはやギターやベースといった弦楽器ではない。

 ハンマー・ダルシマーはピアノの祖先とも言われる古典的でシンプルな楽器で、2本の細いスティック状のハンマーで弦を直接叩いて演奏するツィター属の打弦楽器。
アパラチアン・ミュージックやトラディショナルなフォークソングなどで使用される、ひょうたん型のボディにネックとフレットが付いているギター・スタイルのアパラチアン・ダルシマーとは別の楽器である。

 写真のハンマー・ダルシマーは小さなカード・テーブルほどの大きさで、台形の箱に沢山の弦が張られている。
この楽器は、トニー・ゼマイティスと英国人のマックスというゼマイティス・コレクターとでデザインしたもので、1980年代に製作された。
基本的には各弦のピッチを変えて解放弦で音階を作り、スティック状のハンマーで演奏するが、日本の琴のように指で弦をベンドさせることでメロディを奏でることもできるという。

 写真のものには40本ほどの弦が張られているが、5本のベース弦を含めると全部で63本まで弦を張ることができる。
そのサウンドは透明感があり、ハンマー・ダルシマーのようなトーンではあるが、ややハープにも似ていて、とても魅力的なサウンドだと言う。
このダルシマーを見ても、トニー・ゼマイティスの物作りに対する創作意欲が伺われる。

 トニーは70年代前半にロンドンからケントに引越した際に、何人かの友人と家族用の小さなダルシマーを数本製作していたことがあったようで、それらの経験がヒントになっているようだ。 

 この楽器を見て、ゼマイティスのものであることが分かる人はまずいないだろうが、ボディトップの左側に小さなハート型のサウンドホールが2つ付いており、ここにはゼマイティスらしさが感じられる。

 それにしても、とてもインパクトと存在感のある楽器である。

Special Thanks to Keith Smart