1939 MARTIN 000-42

エリック・クラプトンは、1992年初頭にUSAで放映されたTV番組『MTVアンプラグド』に出演し、その演奏が大きな話題となった。
そしてその回を収録したアルバムとDVD『アンプラグド〜アコースティック・クラプトン』をリリースしたことで、アコースティック・ギター・シーンに大きな波紋が広がった。
それまで「エレキギターの神様」だったクラプトンは、92年を境に「アコースティック・ギターの神様」となり、世界の音楽シーン、ギター・シーンを塗り替えていった…。

 80年代後半から、アコースティック・ギター・シーンは徐々に盛り上がりを見せ、ハードロック系やメタル系のバンドがライブでアンプラグド演奏を行なうようになっていた。
そのムーブメントを察知して企画された音楽番組が1989年にスタートした『MTVアンプラグド』だった。

 アコースティック・シーンがかなり温まってきたところに、クラプトンの『MTVアンプラグド』が放映され、アルバムやDVDのリリースがそれに追い打ちをかける形となり、シーンは一気に大ブレイク。
クラプトンは時の人としてその頂点に上り詰めた。

 『MTVアンプラグド』でファンが驚いたのは、クラプトンの見事なフィンガーピッキングは元より、彼が使用したヴィンテージ・マーティンだった。
特に注目されたのが、1939年に生産された「MARTIN 000-42」である。

 1970年代以降、マーティン・ギターといえばD-18かD-28とほぼ決まっていて、D-45は極一部の特別なギタリストが使用していたに過ぎなかった。
クラプトンの使用した000-42は、80年前に生産が終了したモデルで、市場で見ることのない幻のヴィンテージとして、一部のマニアにしかその存在が知られていなかった。

 クラプトンの愛用により、ドレッドノートから000モデルに移行するプレイヤーが急増し、マーティンでは000を急遽増産するも常に品不足の状態が続き、楽器店の店頭で見かけるようになるまでには数年の歳月を要した。

 写真はクラプトンが『アンプラグド』で愛用したギターと同じ1939年に生産された000-42。
このモデルが登場したのは1918年。
当時は12フレット・ジョイント、スロットヘッドを採用したクラシカルなデザインで、ガット弦が使用されていた。 

 スタイル42の歴史は古く、1840年代にはすでに製作されていたようだが、1904年に0-45や00-45が登場するまでフラッグシップ・モデルとして極少数生産されていた。
スティール弦、14フレット・ジョイント、ソリッドヘット仕様の現在に近い000-42が登場したのは1934年である。
43年に生産が完了するまでの9年間に生産された000-42は、トータルで僅か113本。

 スタイル42と45はよく似ているが、42は大文字のバーチカルロゴ・インレイではなくスタンダードなオールドロゴ・デカールを使用。
フィンガーボードのポジションも、大きなアバロン・ヘキサゴンではなくスノウフレイクやキャッツアイなどが使用されている。
スタイル42もかなり豪華なモデルではあるが、45ほど男性的ではなく、よりクラシカルでやや控えめなイメージからあえて000-42を求めるマニアもいる。

 アンプラグド・シーンの中で大きな話題となり注目を浴びた000-42だが、再生産が開始されたの2004年からで、アルバム『アンプラグド』がリリースされて12年後のことだった。

Special Thanks :「Player」/ Woodman