ハワイアン・ギターって、なに?

 「音楽文化と楽器」とは密接な関係にある。
1910年代からハワイアン・ミュージックがアメリカでブームとなり、1920年代から40年代はアメリカを中心に世界的なハワイアン・ブームが巻き起こった。
我々がイメージするハワイアン・ミュージックは、ハパハオレ・ソングと呼ばれるものでネイティブ・ハワイアンの文化とアメリカの音楽産業の融合によって誕生した商業音楽である。
そして戦前のハワイアン・ブームは楽器のエレクトリック化のタイミングとも重なり、新たな楽器の誕生や進化に大きな影響を与えた。

 約100年程前の1920年代は、まだエレクトリック・ギターが誕生しておらず、ハワイアン・ミュージックもすべてアコースティック楽器による演奏だった。
ハワイアン・ブームによってより多くの人々がハワイアンの演奏を聴くようになると、演奏家達は大きくなる会場とは裏腹に楽器の音量が小さいことに頭を抱えていた。
特にスティール・ギターの音量は限られているため、少しでも大きなサウンドが出るように1920年代前半に特殊な構造を持ったスライド奏法専用ギターが開発された。
そのひとつがネックまでホロウ構造を採用したワーゼンボーンであり、やはり20年代に誕生したナショナルのリゾネイター・ギターだった。

1930年代〜40年代、様々なモデルのハワイアン・ギターが誕生した。

 それに対して、マーティン社のハワイアン・ミュージックに対するアクションは早かった。
ワイゼンボーンが誕生する10年近く前、1910年代後半からスライド奏法に特化したスティール・ギターを発売した。
それがハワイアン・ギターである。
これは膝の上に寝かせて弾くいわゆるラップ・スティール・ギターのひとつで、C6などのオープン・チューニングにセットし、ネックは握らずに左手に持った金属バーで演奏を行う。

 ハワイアン・ギターはフラットトップをベースにしているため、一般的なギターによく似ている。
その違いは、ブリッジ・サドルが斜めではなくブリッジと平行にセットされ、ナットとサドルが平で背が高く、弦高が高くセッティングされていること。
フレットは打たれているが、弦を押しつけるためではなく、スライド演奏の音階を示すマーカーとして使用される(ブランドによってはフレットではなくマーカーでラインが書かれている製品や、ネックが四角いスクエア・ネックの製品もある)。
そしてフィンガーボードはフラット。
マーティンの場合、一部サドルが斜めにセットされたハワイアン・ギターもあるようで、これはハワイアン・ギターと一般的なフラットトップを兼用できる製品である。

ヴィンテージ・マーティンのコアモデルは、現在も高い人気を博している。

 マーティンの1920年代末のカタログにも、00-40Hというハワイアンのフラッグシップ・モデルと0-17Hという廉価モデルが掲載されている。
マーティンでは30年代末までカタログにレギュラー・モデルとしてハワイアン・ギターが掲載され、00-17H、00-18H、00-18K、00-21H、00-28K、00-40H、00-40K、00-45K、0-17Hなど、00サイズを中心にいくつもの製品が生産された。

「Martin Guitars : A Technical Reference 」にも幾つかのハワイアン・ギターが紹介されている。

 一方、1930年代前半にリッケンバッカーからエレクトリック・スティール・ギターが発売され、以降ハワイアン・シーンは様変わりしていく。
音量が自由に設定できるエレクトリック・スティール・ギターはそれまでの多くのプレイヤーの悩みを解決し、ハワイアン・ミュージックを象徴する楽器となっていった。
やがてマーティンやワイゼンボーン、ナショナルなどを含めほとんどのアコースティック・ハワイアン・ギターは、エレクトリック・スティール・ギター取って代わられ、やがて時代遅れの存在となった。

1936年のカタログ。ドレッドノートが「オーケストラ・モデル・スタイル D」と紹介されている。

 現在ヴィンテージとなった戦前に生産されたアコースティックのハワイアン・ギターは、そのままスライド・ギターとして使用されているものやコレクションの対象になっている製品もあるが、楽器店で販売されている製品の多くは、スライド・ギター専用部分を改造することで、ヴィンテージ・アコースティック・ギターとしてリメイクされている場合も少なくない。
ブリッジ・サドルやナット、フレット、ネックの角度やフィンガーボードなどがギター用にコンバージョンされ、良く響くヴィンテージ・アコースティックとしてヴィンテージ好きのプレイヤー達に好まれている。