c.mid 1930’s RIKENBACHER A-22

以前のコラム「ヴィンテージ・ギター・オリジナル・シリーズ その 26」で、1941年製のラップスティール・ギター、RICKENBACHER B-6を紹介した。
そのイントロで「エレクトリック・ギターのルーツは、1932年に登場したリッケンバッカー A-22というラップ・スティールである」と紹介している。
今回は、1930年代中期に製作されたそのエレクトリック・ギターの原点「RICKENBACHER A-22」を紹介しよう。

 1930年代のアメリカは空前のハワイアンブームで、多くのハワイアン・バンドがアコースティック楽器による演奏を行っていた。
プレイヤー達は、大勢の観客を前にアコースティック楽器の音量の限界に悩まされていた。
少しでもスライド・ギターの音量を稼ぎたいと、ネックまでホロー構造のワイゼンボーンやアルミコーンを使用した金属製のナショナル・リゾネイター・ギターなど、新たなスライド奏法専用ギターが考案された。
そしてその延長線上として、世界初のエレクトリック・ギター「RICKENBACHER A-22」が誕生した。

 エレクトリック・ギターの登場により、スティール・ギター・プレイヤー達は音量の問題から解放され、ハワイアン・ギターは瞬く間にエレクトリック化していった。
そしてこの流れは、1950年に誕生する世界初の量産化エレクトリック・ソリッド・ギター、ブロードキャスター(テレキャスター)へと繋がっていった。

 写真は、その世界初のエレクトリック・ギターであるリッケンバッカー A-22で、1930年代半ばに生産させた製品。
エレクトリック・ギターといっても、一般的なスパニッシュ・スタイル(抱きかかえて演奏するスタイル)のギターとは異なり、膝の上に寝かせて演奏するスライド専用のラップ・スティール。
後にこのラップ・スティールにスタンドが取り付けられてスティール・ギターへと発展し、さらにスティール・ギターにベンド機能などのペダル類を追加して大型化した製品がペダル・スティールである。

 A-22は、1931年に設立されたローパットイン・コーポレーションによって製作された。
ローパットインは、1934年に社名をエレクトロ・ストリング・インスツルメンツに変更。
初代社長がアドルフ・リッケンバッカー、副工場長は以前ナショナルに在籍していたジョージ・ビーチャムやポール・バースだった。

 A-22のプロトタイプはメイプル製だったが、プロダクション・モデルはアルミニウム素材で製作され、その外観から “フライパン” の愛称で親しまれた。
初期のモデルはブランド名がエレクトロだったが、34年の社名変更に伴い “リッケンバッカー・エレクトロ” になった。
当初ブランドのスペルはドイツ語表記の「RICKENBACHER」だったが、1950年に英語表記の「RICKENBACKER」に変更された。

 A-22のスケールは22-5/16(もしくは22-1/2)インチ、A-22の発売に続いて25インチのロング・スケールを採用したA-25も発売された。
どちらのモデルも1950年頃までまで生産され、その役目を終えた。

 円形のボディとネックとはジョイントされたものではなく、鋳造により一体成型で作られている。
ヘッドの上部には穴があいており、そこから内部が空洞になっている様子が確認できる。
ネックにフレットは打たれておらず、フレット位置のフィンガーボードがフレットのように一体成型によって盛り上がっている。
全体が、ハイポリッシュ・シルバーデュコと呼ばれる特殊なフィニッシュで仕上げられ、いかにも「フライパン」というニックネームがピッタリ。

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