1971 FENDER LTD

1958年に登場したフェンダー・ジャズマスターは、そのネーミングでも分かるように元々はジャズ・ギタリストに向けて開発されたモデルだった。
結果的に、60年代のサーフィン・ミュージックやエレキインストなどで広く使用されるようになったことで、フェンダーを代表するモデルのひとつとして認知されている。
しかし、本来のコンセプトだったジャズ・ギタリストにはまったく受け入れてもらえず、ジャズマスターというモデル名だけが空回りした格好になった。

 それから約10年後の1968年、フェンダーはその屈辱をはらすべくジャズ・ギタリストのための新たなモデル、LTDとモンテゴというフルアコースティック・モデルを発表し、翌69年から発売を開始した。
今回紹介するギターは、フェンダーが生んだ幻のアーチトップ、「LTD」である。

 このモデルは、ジャズ・ギタリストに向けて企画されたフルアコースティックだが、ギブソンなどの一般的なフルアコとはかなり異なるフェンダーならではの特徴を備えている。
最もフェンダーらしい仕様が、ボルトオンネックの採用。
ネックとボディは他のフェンダー製品と同様に、四角いネックプレート(ゴールド)が使用され、4本のボルトによってジョイントされている。

 17インチ・ワイド、5-1/2インチ・ディプスの大型フルボディを採用し、トップのスプルースはジャーマンカーブと呼ばれる独特な形状のアーチが作り出されている。

 LTDを設計した人物は、かつてリッケンバッカーで製品開発を担当し、フェンダーに移籍したロジャー・ロスマイズル。
製作は1964年からアコースティック部門で活躍し、後に独立して自分の工房でファクター・ベースを製作したフィリップ・クビキ。
エレクトリック・アッセンブリはレオ・フェンダーの良きパートナーとして創業当時から活躍したフレディ・タバレスが担当するなど、そうそうたるメンバーによってLTDは完成した。

 姉妹下位モデルのモンテゴはボディトップに合板が使用されたが、LTDには厚いスプルース単板から削り出されたトップが使用され、トップの内側には2本のブレイシングと、ロスマイズルとクビキのサインが記されている。
バック&サイドには最上級グレードのフィギュアド・メイプルが贅沢に使用されるなど、その高級感と存在感は別格である。

 外注で製作したハムバッキング・ピックアップをフロント・ポジションにセットし、イタリアから取り寄せたセルロイド素材で作った専用フローティング・ピックガードに、ボリュームとトーン・コントロールがセットされている。

 ローズウッド、もしくはパドゥークのセンターストリップを挟んだ3ピース・メイプル・ネックは、25-1/2インチのフェンダー・スケールを採用。
エボニー・フィンガーボードには、オーストラリア産の白蝶貝を使用した大きなブロック・インレイが採用されるなど、高級ジャズ・ギターとしての貫禄が感じられる。

 1960年代末のフェンダーの英知を結集させて完成したLTDは、なんと当時ストラトの4倍という特別な価格が設定され、正しくフラッグシップ・モデルとして登場した。
しかし、またもやジャズ・ギタリスト達の反応は厳しく、ほとんど評価されることはなかった。

 1974年まで同社のカタログに掲載されたが、実際にギターが製作されたのは72年頃までと思われ、出荷はトータルで僅か36本。
写真は1971年に製作されたLTDで、ネックプレートに刻印された専用シリアルナンバーは「23」である。

 70年代初頭といえば、ストラトキャスターが爆発的にセールスを伸ばしていた時期にあたるが、その成功とは裏腹にLTDとモンテゴは静かに姿を消していった…。 

Special Thanks :「Player」/ Shimokura Second Hands