1964 GIBSON Firebird Ⅶ

1960年代初頭、フルアコースティック・ギターやエレクトリック・シンライン・ギターの市場において、ギブソンは独断場とも言える状況にあり、他のブランドが追従できないほどのマーケットシェアとユーザーからの信頼性を勝ち取っていた。
しかし、エレクトリック・ソリッドボディの市場となると、後発メーカーであるフェンダーに大きく水を開けられた状況にあった。

 当時ギブソンのソリッドボディ・ギターは、1961年にSGシェイプへとフルモデルチェンジしたレスポール・ファミリーのみで、このシリーズだけではフェンダーに太刀打ちできないことは明白だった。

 1962年、テッド・マッカーティーを中心としたニュー・モデル開発プロジェクトがスタートした。
レスポール・シリーズやSGシリーズは、楽器としての完成度に関しては市場から評価を得ていたが、フェンダーのラインナップはどのモデルも時代を先取りした機能性とモダンなデザインが採用されており、実質的にエレクトリック・ソリッドボディ市場を牽引していた。
ギブソンは、そういった状況の中でフェンダーに対抗できるモダンで新鮮なイメージのラインナップが必要だった。
そこでマッカーティが白羽の矢を立てた人物が、カーデザイナーのレイモンド・デートリッヒだった。

 長年に亘り自動車業界で製品開発とデザイナーとしてのキャリアを積んだデートリッヒのアイディアを活かし、翌63年に発表されたのがファイアーバード・シリーズ(ギター)とサンダーバード・シリーズ(ベース)である。
これらの製品は、これまでの伝統的なスタイルを重視したギブソン・ギターとはまったくテイストの異なる、大胆で新鮮なイメージのモデルに仕上がっていた。
ギブソン初のリバースヘッドとリバースボディが採用され、60年代の音楽シーンに向けた新たな試みがいくつも成されていた。

 今回はそれらの製品の中から、ファイアーバード・シリーズの最上位モデルにあたる「Firebird Ⅶ」を紹介しよう。

 ファイアーバード・シリーズには、シングル・ピックアップにアンバウンド・ネックを採用したファイアーバード Ⅰ。
デュアル・ピックアップにシングル・バウンドネックを採用したファイアーバード Ⅲ。
レスポールと同じトラペゾイド・ポジションマーク、デラックス・バイブローラを搭載したファイアーバード Ⅴ。
そしてシリーズの最上位モデルで、3ピックアップにゴールドパーツを採用したファイアーバード Ⅶの4モデルがラインナップした。

 写真はどちらも1964年製のⅦであるが、左側は極めて珍しいレフティ・モデル。
マホガニー製のボディはスルーネック構造で、ネックの延長線上の左右にウィングを接着したリバースボディを形成している。
ボディはセンターからエッジにかけてややテーパーがつけられ、バックにはフィット感を作り出すコンター加工も施されている。

 リバースヘッドには、ツマミがヘッド裏側に出るクルーソン・バンジョー・チューナーを採用し、このモデルをより印象的なものにしている。
9ピースのマホガニー・ラミネート・ネックは64年からの仕様で、63年製はセンター2ピースのマホガニー・ネックである。
フェンダーと同じ25-1/2インチ・フルスケールの採用も特徴のひとつとなる。

 このシリーズ用にセス・ラバーが開発した小型ハムバッカーが3つマウントされ、機能性と豪華さを兼ね備えたモデルに仕上がっている。

 ホワイトの3プライ、8点止めのピックガードには、赤いファイアーバードのアイコンがスタンプされているが、この装飾も1964年から採用された仕様。
チューンOマチック・ブリッジと板バネ式のデラックス・バイブローラはⅤにも搭載されたが、最上位モデルのⅦにはゴールドメッキが施され、よりゴージャスなイメージを演出している。

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