1967 GUILD F-30NT Special

ニューヨークで1940年代から楽器店を営んでいたアルフレッド・ドロンジは、当時エピフォンを退社した職人などを中心に1952年にギルド・ギターズを設立した。
その2年後に工場をニュージャージー州ホーボーケンに移転し、本格的なアコースティック・ギターの生産を開始した(さらに1960年代後半にロードアイランド州ウェスタリーに移転)。

 当初から丁寧な作りとリッチで力強いサウンドは、マーティンともギブソンとも異なるオリジナル・サウンドとして高く評価された。
60年代中盤以降の世界的なフォークソング・ブームの中で、マーティン、ギブソンに続く第3のギター・ブランドとして人気を博した。

 リッチー・ヘヴンス、ジョン・デンバー、エリック・クラプトン、スラッシュ。
日本でも、南こうせつ、泉谷しげる、松山千春、井上陽水など、多くの有名アーティストやギタリストがギルドを手にしている。

 中でも、60年代中盤から70年代前半に世界的にブレイクしたサイモン&ガーファンクルのポール・サイモンは、F-30NTという中型モデルをベースとした特注モデル(1967年製)を愛用したことで知られ、ギルド・ギターの人気に拍車をかけた。

 今回紹介する「GUILD F-30NT Special」は、そのポール・サイモンが愛用したオーダー・モデルと同じ仕様で製作されたスペシャル・モデルで、本人のギターと同じ1967年製である。
F-30アーゴンやF-30Rと似ているが、カタログのラインナップにはない幻のモデルで、極めてレアな1本である。

 ボディ・サイズやデザインはマーティン000に似ているが、幅と深さがそれぞれ2mmほどF-30スペシャルの方が大きい。
ボディトップはスタンダードなスプルースだが、サイドとバックが異なる材で製作されている。
サイドはハカランダ、バックはナイジョリア・ローズウッドという耳慣れない材を使用。それが意図したものか、それとも材のストックの都合によるものかは定かではないが、極めて例外的な仕様である。

 また、バックブレイスも標準のスプルースではなく、マホガニーが使用されている点も特別仕様となる。ピックガードは60年代半ばから採用されたタイプで、80年代半ばまでのマーティンのように塗り込みタイプ(塗装前にピックガードをセットしてからトップを塗装)。

 アンバウンドの2ピース・マホガニー・ネック、エボニー・フィンガーボードを採用し、スケールはマーティン000よりやや短い24-3/4インチ(ギブソン・スケール)を採用。
当時のマーティンなどと比べて、やや細めのナロー・グリップに仕上げられている。

 このモデルはギルドの正式なラインナップにはなく、ポール・サイモンのために製作された数本以外は見当たらない。もしかすると、本人のために製作したギターの中の1本という可能性もあり、極めて興味深い。

 80年代のアコースティック・ギター・シーンは、どこのメーカーも厳しくギルドもエレクトリック・ギターやベースを生産していたが、1995年にフェンダー社に買収され、オリジナル・ギルドの歴史は幕を閉じた。その後はフェンダーのコロナ工場やタコマ・ギターズ、オベーション工場、廉価モデルは中国の工場などでOEM生産されていたが、2014年にコルドバ・ミュージック・グループに買収された。

 60〜80年代に生産されたギルド・ギターは現在ヴィンテージ市場でも人気が高く、探しているギタリストは少なくない。

Special Thanks :「Player」