GIBSON MK-35 1976 / MK-72 1977

 ギブソンのフラットトップ・モデルと言うと、多くの人はJ-45やJ-50、J-200、中にはハミングバードやダブをイメージする人もいるだろう。
しかし今回紹介するギターは、数あるラインナップの中でも最も不発だったと揶揄される、マーク・シリーズの「MK-35」と「MK-72」である。

 ギブソンは、2年に及ぶ開発期間を経て1975年にフラットトップ・モデルにおける新たなアプローチとして、マーク・シリーズを発表した。
シリーズ開発のために新たに迎えられたクラシック・ギター製作家のリチャード・シュナイダー、そして弦楽器の音響特性の研究家でありフロリダ州立大学教授であるマイケル・カーシャとのコラボレーションによって誕生した。

 シリーズはボディ材や装飾類の仕様などの違いによって5つのモデルがラインナップされた。
マホガニー・ボディのMK-35、メイプル・ボディのMK-53、そして3機種のローズウッド・ボディ・モデルとしてMK-72、MK-81、さらにシュナイダーのハンドメイドによる最高級機種となるMK-99(ハカランダ・バック&サイド)が用意された。
また77年には、MK-35をベースとして独自のブレーシング・パターンを採用した12弦モデル、MK-35-12Nもスポット生産された。 

 どのモデルもややクリアで重い独特なトーン・キャラクターと長いサステインが特徴で、単に外観だけではなくギブソン・ラインナップの中でかなり異色でモダンな存在だった。

 モデル・ネームの “MK” は “マイケル・カーシャ” のイニシャルから取られ、数字が大きくなるほど豪華な仕様で価格は高く設定されていた。
ギブソンの将来を展望した一大プロジェクトとしてスタートした画期的なシリーズだったが、その意気込みとは裏腹に期待された成果を得ることはできず、僅か5年で生産が終了した。

 長い歴史と伝統のあるメーカーにおいて、科学的な理論やデータに基づいた製品開発というこれまでにない試みであり、時代をリードするハイクオリティなアコースティック・ギターとして発売された夢のシリーズだった。
しかし70年代半ばという、製品にギブソンらしさを求めていた保守的なギター市場に送り出すには、時期尚早だったようだ。
現在のようにフラットトップに対する柔軟な考えやアプローチが多様化している状況であれば、その評価はまったく異なっていたに違いない。

 写真の製品は、シリーズの中で総出荷量の半数以上を占めたマホガニー・ボディ・モデルのMK-35(写真左、1976年製)とローズウッド・ボディのプレーン・モデル、MK-72(写真右、1977年製)である。

 ギブソンには、発売当初はその魅力や製品コンセプトがユーザーに理解されず、数十年してから人気が出てリイシュウされたモデルは数多くあるが、このマーク・シリーズは、発売中止から40年以上経過した今も再発売される状況には至っていない。