ゼマイティス・ギターの歴史を辿ると、1950年代半ばからギター製作を行っていた英国の天才ギター・ルシアー、トニー・アンタナス・カシミア・ゼマイティスに始まる。

 トニーは若い頃優秀な家具職人だったが、少年時代から大好きだった音楽とギターに魅せられ、独学でギター作りを学び、いつしかギター・ルシアーとして生計を立てるようになった。
トニーが最初に製作したギターは安価なクラシック・ギターのコピーだったが、すぐにスティール弦のフラットトップを製作するようになり、その評判は徐々にロンドン中に広まっていった。
特に12弦モデルの製作が高く評価され、自らも12弦ギターを手にライブ活動を行っていたようだ。
そして若き日のエリック・クラプトンも、そんなトニーのギターに魅せられ、超大型のジャンボ12弦アコースティックを1969年にオーダーしたのである。

 トニー・ゼマイティスが製作するギターは、基本的にオーダーメイドだったこともあり、決まったフォーマットがほとんどなかった。
オーダーがあれば、どんなタイプのギターでも自分なりの独自なスタイルで製作していたが、製作をする前に、オーナーの掌を測り、ネックのサイズやネックグリップを決めていたという。

 6弦ギター、12弦ギター、クラシック・ギター、アーチトップ・ギター、ソリッド・エレクトリック・ギター、セミアコースティック・ギター、エレクトリック・ベース、アコースティック・ベース、フレットレス・ベース。
6弦ベース、時にはリゾネイター・ギターやフレットレス・ギター、ダブルネック・ギター、エレクトリック・マンドリン、さらにはハンマー・ダルシマーさえも製作した。 

 若き日のトニー・ゼマイティスは驚くほど物作りに対して野心家で、ギター作りだけに留まらず、クラシック・カーの修理やレストア、さらには小型のプロペラ飛行機まで製作したという逸話が残っている。

 今回から数回に亘って、トニー・ゼマイティスが製作した超個性的なギターや弦楽器のいくつかを紹介しよう。

 まず最初に紹介するのは、トニー・ゼマイティスの製作したクラシック・ギター。


 写真は1985年に製作されたもので、かなりクラシカルなデザインを採用している。
しかし、ヘッドストックのデザインはひとひねりされており、個性をアピールしているあたりにトニー・ゼマイティスらしさが感じられる。
いったいどんなサウンドなのだろう。