1958 GIBSON Flying V

マイケル・シェンカー、ジミ・ヘンドリックス、アルバート・キング、ランディ・ローズなど、70年代以降ギブソン・フライングVやV型形状のギターを愛用するギタリストが数多く登場し、V型ギターはスタンダードなデザインの一つとなっている。
しかし、ギブソンからオリジナルのフライングVが登場したのは1958年、今から65年も前のことである。
50年代というと、エレクトリック・ギターは一部のプロギタリストが使用する楽器で、アマチュア・ギタリストが趣味で使用する楽器ではなかった。
そんな時代にV型のロケットのようなデザインのギターは、かなり奇妙に見えたに違いない。
今回紹介するギターは、そんな1958年に誕生したギブソン・フライングVのオリジナル・モデル。

 1950年にフェンダーからブロードキャスターが発売され、続いてプレシジョン・ベース、ストラトキャスターなど、新たなエレクトリック・モデルが次々に登場した。
それらはアコースティック・ギターとはまったく異なるソリッド・ギターならではの新しいデザインと機能性を搭載しており、ユーザーの反応も良かった。
これに対して老舗であるギブソンは、2年遅れの1952年にレスポール・モデルを発売し、続いてレスポール・カスタムやジュニアも登場したが、どのモデルも伝統的なアコースティック・ギターを彷彿とさせるトラディショナルなデザインで、フェンダーと比べると古くさいイメージがつきまとった。
そこでギブソンはフェンダーに負けないモダンでクールなデザインの未来型ギターを発売する計画を立て、その第1弾として1958年にフライング Vが発売された。

 直線を活かした大胆なV字型のヘッドストックとボディには、コリーナ(リンバウッド)と呼ばれる新たな木材が使用され、それまでのギブソンのイメージをくつ返す斬新なデザインのギターとして完成した。
しかし、あまりにもそれまでのギブソンのイメージとかけ離れたデザインであったため、ギター・ファンからそっぽを向かれ、製品はまったくと言えるほど売れなかった。
当時の出荷記録によれば、1958年に出荷されたVは81本、59年に17本、その時点で生産は終了となった。
60年代に入り、余っていたパーツを組み上げた製品が60年代初頭に20本ほど出荷され、このプロジェクトはピリオドを打った。

 1960年代半ばになると、ロック・ギタリストの間でフライングVのクールなデザインが再評価されるようになる。
そして1967年、マホガニー・ボディを採用し、デザインをフルモデルチェンジした新たなフライングVのリイシュー・モデルを限定発売した。
このギターは、当時ジミ・ヘンドリックスを始めとする先進的なギタリストに高く評価され、70年代以降のロック・シーンで広く愛用されるようになっていった。

 同じモデルであっても、10年先にはまったく別の評価を受けた例はいくつかあるが、このギブソン・フライングVとその姉妹モデルのエクスプローラは、その筆頭と言える。
ギターの評価や価値観は単に楽器としての魅力だけではなく、時代背景や音楽シーン、使用ミュージシャンとの関係の中で決まるのである。

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