マーティンの個性が光るティプル

マーティンの「TIPLE( ティプル)」という弦楽器をご存知だろうか? 1910年代のタンゴブームを背景として生まれた10弦仕様の小型弦楽器で、民族音楽などで明るく華やかなサウンドを演出する楽器である。
17インチ・スケールを採用した4コースのマーティン・ティプルは、1923年に登場したT-18を皮切りに、70年代後半までカタログ生産され、かつてはトータル10モデルほどのラインナップがあった。
それ以降も90年まではカスタム・モデルのひとつとして極少数製作されたが、現在は製作されていない。

オール・マホガニー製のスタイル T-15

 形状もサイズもテナー・ウクレレによく似た小型ボディを採用し、スティール弦を使用した10弦4コースという変則的な仕様がユニークだ。
チューニングは、低い4コースの2本が “G”、3本が “C”、3本が “E”、高い2本が “A” というウクレレと同じ音階だが、1コース以外は12弦ギターのように太い弦と細い弦がオクターブ・チューニングされる。
ボディ・サイズとチューニングはテナー・ウクレレ、スティール弦を使用したオクターブ・チューニングは12弦ギター、サウンドはマンドリンやチャランゴに近く、様々な弦楽器の特徴を併せ持った製品である。

1920年代末のマーティン・カタログより

 スプルース・トップ/マホガニー・バック&サイドのT-18の他に、上位モデルとなるローズウッド・ボディのT-21やT-28、オール・マホガニー仕様のT-17、最も廉価なT-15など、様々なバリエーションが存在した。
ボディは小型だが、10弦の強いテンションに耐えられるように、トップにはXブレイシングが採用されている(テナー・ウクレレはラダー・ブレイシング)。

1920年代のマーティン・カタログより

 元々数多く生産された製品ではなかったが、南米系の民族音楽やフォーク・ミュージックなどを中心に使用され、70年代には一時ジョニ・ミッチェルも愛用した。
日本では近年ほとんど目にしないが、やはり70年代に日本のジャンボなどのギター・ブランドでティプルのコピーモデルが生産され、オハナなど一部のウクレレ・ブランドでは現在も少数生産されている。
チューニングがウクレレと同じ音階なので、ギターが弾ける人であれば比較的馴染みやすく、ウクレレを弾いている人であればすぐにでも楽しめる楽器である。

1970年代のマーティン・カタログより